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ラブ 「うおお…せつなについてかないとー」 美希 「ブッキーこないなんて…楽しみにしてたのに」 祈里 「うう…ラブちゃんと会いたかった…。」 せつな「ブッキーと買い物なんて楽しみだわ…」
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ザクザクザクザク…… くちゅん 寒い。 朝早くから庭でスコップ片手に雪をすくう私を、ウエスターとサウラーは興味深げに見ていた。 クリスマスとはこの世界では一大イベントらしい。 「イース、メリークリスマス!!」 来るとは思っていたがまさか真っ赤な服装で現れるとは予想外だった。美希サンタだよ、といわれようやくサンタクロースの衣装をモチーフにしたものだと理解した時には、反応の悪い私に対して彼女は少しむくれていた。 胸元は開いていて、白く長い脚など8割以上肌をさらしていて……サンタクロースすらつい最近まで知らなかった私にわかれという方が難しい。 「クリスマスイベントの仕事でこんな時間になってごめんね」 「別に待ってないわ」 「そうよね。寂しかったよね」 私の皮肉など慣れたのかスルーしまくる美希を部屋に招き入れると、ケーキ持ってきたからとスタスタとキッチンへ向かう。 ナイフを出したり、皿を用意したり今では彼女の方が私よりこの家のことが詳しいのではないかと思えるほど手際がいい。 私はやることもないので大人しくリビングに行きソファーに座った。 イースのことが好きなの、付き合ってくれませんか。 美希に告白された時のことを私は今でも覚えている。 私の記憶が正しければ 嫌だ。お前のことなんか私は嫌いだ。 そう返した。 私が睨みつけると彼女はわかったと言って私を抱きしめた。 そして今に至る。 どう考えてもおかしい……。 私の理解する限り恋人とはお互い好きで初めて成り立つ関係ではないのか。 「お待たせー。食べよ」 私の考えは美希が白いケーキを目の前に出したことで中断された。フォークで刺してもふわりとした感触が伝わってきて、なぜか少し嬉しい。 「あーんして」 彼女のフォークの上のケーキを私は黙って口に入れる。甘い味が口に広がり、咀嚼している時彼女を見ると目を細めて微笑んでいた。 美希は綺麗な指でケーキに乗っていた苺を持つと、ヘタを取り半分ほど唇で挟んだ。 彼女が目を閉じたのを確認して、私は頬に手をそえ顔を近づける。 「ん……」 唇が触れない程度の所で歯をたてるとぐちゅっと苺が潰れ汁が滴る。苺は噛み切らず今度は深く唇ごと貪りつく。 苺の香りが鼻につき、甘ったるさが増す。 唾液と苺が混ざり合いお互いを行き来して、口の中の存在が相手の舌だけになったとき、どちらからともなく口を離した。 美味しかった?と目で訴える彼女にもう一度キスをすることでこたえる。 二人を纏う空気が濃厚なものに変わり、私と美希は自然と私の部屋へ向かった。 ベットへ押し倒すと、欲望に濡れる蒼い瞳を隠そうともせず私を見る。 「相変わらず殺風景な部屋よね」 「寝るためだけのような場所だから」 白い肌に舌を這わせようとしたとき、色のつながりであることを思い出した私はぴたりと動きを止めた。 美希の非難を背中に受け部屋を出る。 まったく……これを忘れたらあの努力が水の泡だ。 戻ってきた私をジト目で見る美希だったが、私の手の上のモノを見てぱあっと顔を輝かせた。 「雪だるま!作ったのコレ?」 予想以上に喜ぶ彼女を見て自然と私の頬も緩む。 外で待たせていたのでふて腐れているかと思ったが、雪だるまは朝と変わらず美希の手におさまった。 本で見た絵を参考に、お菓子や枝で装飾した手のひらサイズの粗末なモノだがそれでもありがとう!うれしい!と美希は喜んでくれた。 「かわいい。でもこの部屋だと溶けちゃわない?」 「いいのよ。クリスマス用だから」 美希が雪だるまをベットサイドに置いたのと同時に私は後ろから抱きしめた。 ふわりと彼女の匂いに包まれ目を閉じる。 「あたしのこと好き?」 「……嫌い」 「そう、あたしも好きよ」 くすくすと笑い声が聞こえ、なぜか恥ずかしくなったので彼女の耳を甘噛みするとこつんと頭をぶつけられた。 私の手が彼女の服にかかり二人でベットに倒れ込む。 私は馬鹿だと思うがこんな私を好きな彼女は更に上をいく馬鹿だと思う。 好きだといってくれなくてもいい、あたしのことを信じてくれたらそれだけで嬉しい。 初めて身体を重ねた時そんなことを言われた。 欲に流され、意識が途切れそうになる瞬間私が強く握りしめたのは、シーツではなく彼女の細い指だった。 「なーに考えてるの」 「なんでもないわ」 私がそうとこたえるとむすっとなって、頬っぺたをむにーと引っ張られた。 「痛いわよ、離して」 「好きって言ってくれたら」 「言わなくてもいいんでしょう?」 それはそうだが言われたら嬉しいよと美希は抗議してくる。 駄々をこねる子供みたいだと微笑ましくなった。普段全てを見透かしているかのように大人っぽい彼女が見せる一面。蒼い髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜるとお返しとばかりに肩に噛みつかれた。 「いいわよ。この関係でも満足してるし……もし、イースに好きな人ができたら、あたしは諦めるし……」 震えながら言う彼女は私より身長も高いはずなのにとても小さく思えた。 「……ずるいことしてるのはわかってるから」 「そうでもないんじゃない」 「え?」 美希の続くはずだった言葉は私の口に吸い込まれた。 ――――――――― 「これって……?」 シャツ一枚でも美希が震えていないのは、この部屋がエアコンと情事の後の熱気で暖かいから。 熱にさらされた雪だるまは今や溶けて、液体と小さく透明な袋だけを残している。 美希は袋を手にすると中に入っていたネックレスと白い紙を取り出した。 「ネックレスだけど……指輪?」「クリスマスプレゼント。今はまだ首につけていて欲しいの」 トパーズがはめ込まれたそれを美希の首にかけると、彼女は頬を染めて微笑んだ。 「ねぇイース、知ってる?トパーズは幸福、希望って意味があるのよ」 教えてもらった石の意味を聞いて、あの時直感で買ったのは必然だったのかと思って苦笑した。 美希はリングを指にちょこんとひっかけ全体を見る。 魅力的な笑顔でありがとうとほんとに嬉しそうに言うから、私は素直によかったと思った。 「こっちは、紙だよね?……何か書いてある」 かさかさと小さい紙が開かれていく。 「うそ……」 美希が目を見開いて書かれた文字を読んでいくのを私は不思議な気持ちで眺めていた。 首にかけた指輪も手紙に書かれた言葉も気持ちを伝えるのには曖昧で、完璧には程遠い。 「うっ、ひく、うわーん」 「どうして泣くのよ!」 「ぐすっ、嬉しいからよ」 悲しいときも泣くくせに、嬉しいときまで泣くなんて……。 私はそっと手を伸ばし美希の涙を拭う。 沢山の人を傷つけたこの汚れた手でも、美希はいつも優しく握って綺麗だねと言ってくれた。 改めて私は彼女から沢山のモノを貰うばかりだったことに気づく。朱い太陽の下で話をして、蒼い空の下を散歩する。 穏やかな毎日も、楽しい出来事ももたらしてくれたのは美希だから。 美希以上にこの関係を利用していた、私からのはじめてのプレゼント。 「私は今幸せだから」 緊張しながら口にした言葉は、紙を胸に抱いてぼろぼろと涙を流している彼女に聞こえただろうか。 END おまけ 「イース、僕が提案したラブレターはどうだった?」 「俺のテレビで見た雪だるま作戦もよかっただろ?」 次の日、リビングで顔を合わせた同居人たちはにやにやと笑いながらイースを問い詰める。 ソファで本を読んでいたイースはちらっと二人を見ると、がばっと服を胸元までさげた。 「とっても役に立ったわ」 キスマークが尋常なほど散らばる肌を見て囃し立てようとした二人は、イースの顔を見て息をのんだ。 いつもの何倍も人を見下すような冷たい顔をしている。 「上手くいったんだよ……な」 「ええ、あなたたちのおかげで発情したメス猫の相手をしただけよ」
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裏返しに並べられた百枚の読み札が部屋に散らばる。囲むのは、ラブと美希と祈里の三人。 ドキドキしながら一人づつめくっていく。 「よしっと。次はラブの番よ」 「よーし……て。えぇーーボウズが出ちゃった。とほほ……」 「わたしの番ね。やった! 姫よ。もらっちゃうね!」 「勝負有りね。でも、ほんとせつな遅いわね。どこまで行ってるのかしら?」 噂をすれば影。階段を勢いよく駆け上がる足音が響く。 何かあったのだろうか? せつながこんな風に慌てることは滅多になかった。 「みんな! 手を貸して欲しいの。凧揚げをするわよ!!」 『えぇ~~!!』 騒動は、突然にやってきた。 『帰ってきたせっちゃん(第十七話)――ある日のせっちゃん。天まで上がれ!(前編)――』 のどかなお正月の昼下がり。 ラブの部屋に集まるのはいつもの四人。カードを囲んで真剣な表情で向かい合う。 歌かるたの散らし取り。百人一種の代表的な遊び方だ。 読み手のラブが読み札を切る。その順に和歌を読み始める。 「むらさめの~」 む、の時点で下の句のカードを探し始める祈里。 五文字目で思いついて探しだす美希。 一番遅れて歌を判別するせつな。 『はいっ!』 三人の手が同時に重なる。上から順に祈里、美希、せつな。 そして取り終える百枚の札。 戦果はせつなが四十枚。美希が三十二枚、祈里が二十八枚だった。 「参りました。もう、せつなには敵いそうもないわね」 「せつなちゃん凄い。こんなに早く百種全部覚えちゃうなんて」 「やっとよ。ブッキーなんて読む前から探し始めてるじゃない」 始めのうちは、下の句まで読んでからしか探せなかったせつなが一番弱かった。 しかし、驚くほどの勢いで記憶していく。 数順目には覚えきってしまい、圧倒的な強さを見せつけた。ラブはともかく、美希や祈里はもちろん暗記 している。 そしてせつなには、まだ一字覚えや二字覚えなんて知識はない。 そのハンデを跳ね返すのが、視力と反射神経、そして記憶力だった。 下の句が配置されてる位置を全て把握してしまう。探し始めるのが一歩遅れても、手が最短距離で札を奪 うのだ。 コンコン 部屋のドアが控えめにノックされる。あゆみが差し入れにきたのだ。 トレイに乗っているのは、おせんべいと緑茶だけ。女の子のおやつには華やかさが足りない。 「ごめんなさいね、紅茶とお菓子を切らしちゃたの」 「おかまいなく、おばさん」 「わたしたち、毎日お邪魔しちゃってるから」 「たはは、せつなと食べ過ぎたよね」 「もう! 主に食べてるのはラブでしょ」 「スーパーなら開いてるわね、後で買い出しに行ってくるわ」 「おかあさん、それなら私が行きます」 せつなはスッと立ち上がり、自分の部屋に上着を取りに行く。 一緒に行くと言った、ラブたちの申し出をやんわりと断る。少し外の空気を吸いたくなっただけ、すぐ帰 るからと。 ラブたちは、せつなが帰るまでボウズめくりをしながら待つことにした。 せつなは一人、お正月の人通りの少ない商店街を歩く。 冷たい風が、暖房で火照った体に心地良かった。澄んだ美味しい空気を胸いっぱいに吸い込む。 始めてのお正月。そして、大切な家族や仲間とずっと一緒にいられる時間。楽しくて、嬉しくて、心は弾 みっぱなしだ。 百人一首も楽しかった。いくつかは学校で習ったものもあったけど、新しい歌もたくさん覚えることがで きた。 最初は全然取れなかった札が、見る見るうちに自分の手元に集まっていくのも面白かった。 でも、夢中になるのはここまでかなって、そう感じてもいた。 これ以上やれば、どんどん差は開いていくばかりだろう。結果の見えているゲームでは楽しさは半減して しまう。 みんなの笑顔を曇らせないためにも、ここからは手加減が必要になるかもしれない。 一枚取るたびに大喜びしているラブが、少しだけうらやましいと思った。 競技と呼ばれるものですら、その本当の喜びは勝利することではないのではないか? せつなはこの世界に来て、強くそれを感じるようになっていた。 カルタに限った話ではない。学校の勉強も、スポーツも同じ。せつなにとっては、全力で取り組み、本領 を発揮できる場ではなかった。 やりすぎれば目立ってしまう。それがいけないことではないのだけど……。 せつなは、称賛されることも、嫉妬されることも、そのどちらも好きではなかった。 ぼんやり考えながら歩いていたら、お目当てのスーパーに着いた。メモを見ながらお菓子を購入して、こ れでおつかい終了だ。 帰り道で駄菓子屋のおばあさんとすれ違った。 「おや、せつなちゃん。正月早々おつかいかい?」 「はい、お茶菓子を切らしてしまって」 「フン、感心しないねえ。正月の三が日からお店開けてちゃ、風情もへったくれもありゃしない」 「すみません。お店が開いたら駄菓子屋さんにもお邪魔します」 「そうじゃないんだよ。だけど、つまらない世の中になっちまったね」 「どうかなさったんですか?」 せつなには、なんだかおばあさんの元気がないように見えた。気になって少しお話がしたくなった。 おばあさんも愚痴の相手が欲しかったのだろう。お店の裏口を開けて、お茶を入れてくれた。 話し相手ができて嬉しいのか、いくらか機嫌も良くなって昔話を始める。 「昔はこの辺りは四ツ葉町商店街なんて呼ばれててね、そりゃあ趣のある人情溢れる町だったよ」 「私には、今でも幸せの集まる素晴らしい街に思えます」 「無論、悪くはないさね。でも、お正月だって昔に比べたら随分味気なくなったもんだよ」 お正月でも休まないお店ができて、お正月の準備がどんどん質素になっていったこと。 洋服が普及して、手間のかかる着物姿で出かける人がとても少なくなったこと。 テレビゲームの流行と共に、外で元気よく遊ぶ子がいなくなってしまったこと。 「お正月といえば男の子は凧揚げ、女の子は羽子板で遊んだものさ。どっちも見なくなっちまってね」 「羽子板は昨日やりました。凧揚げって何ですか?」 「そうか、ついに知らない子まで現れたのかい。興味あるなら凧職人を紹介してあげるよ」 おばあさんは返事も聞かずに立ち上がろうとする。言葉とは裏腹に、会わせたがっているように感じられ た。 せつなは会ってみることにした。 おばあさんに連れられてやってきたのは、通りから少し奥に入ったところにある木造の古い家屋だった。 外見は普通の住宅。でも、一歩敷居をまたげば、そこは本格的な工房だった。 「凧じじい、お客を連れてきてやったよ。顔くらい見せたらどうだい」 「凧じじいはやめろ。もう凧なんて何年も作ってねえや、梅干ばばあ」 「ふん、梅干はお互い様さね」 「あの、初めまして。東 せつなと申します。凧を見せて頂きたくて」 「奥の部屋にあるのがみんなそうだ。好きなだけ見ていきな」 おじいさんはこちらも見ずにそう言った。あまりの無愛想っぷりに、駄菓子屋のおばあさんまで腹を立て る。 だけど、せつなにはぶっきらぼうな態度の中にも、温かさのようなものを感じ取っていた。 クリスマス以来、おじいさんがとても好きになっていた。いや、お年寄りの人間としての深みに、とても 関心を持っていたのだ。 工房を通り抜け、言われた部屋に足を進める。そして――――息を呑んだ。 そこにはおびただしい数の凧が保管されていた。それはまるで凧の博物館のようであった。 形も色々だが、大きさも様々だ。ノートくらいの小さなものから、全長が四メートルを超えるほどの大凧 まであった。 描かれている絵も素晴らしかった。十二支に浮世絵、昆虫や魚を形取ったもの。そして、一番目を引いた のが、大凧に描かれた勇ましい鎧武者。 絵の良し悪しなんてわからないせつなにも、その迫力には心を揺さぶられた。 「凄い……」 「そうかい? 頭の固いじじいでね。装飾品としてなら今でも買い手がつくのに、頑として売ろうとしない のさ」 「どうしてですか? こんなに綺麗なのに」 「凧は飛ばしてこそ凧だってね。今では作るのも辞めちまって、扇子作りで食いつないでるのさ」 「その扇子もすっかり売れなくなっちまったがな」 おじいさんが手を休めて様子を見に来てくれた。何のかんの言っても気にはなっていたらしい。 「扇子だって美術用途なら売れるだろうに、タコ作ってた割には頭の固いじじいだよ」 「そっちのタコとは違うんじゃ……」 「違わねえよ。ひらひらした足をつけてたから、その昔は関西でイカなんて呼ばれててな。粋な江戸っ子が 張り合ってタコと名付けたのが由来よ」 「その割には骨がありますね」 せつなは竹で作られた凧の骨組みに目を奪われていた。見事なまでに強度を計算して張り巡らされている。 この骨組みこそ、凧の出来の要だと思えた。大真面目の指摘なのだが、おじいさんは大笑いした。 「くっくっくっ、こりゃあ一本取られた。面白いお嬢ちゃんだな。気に入った、何でも聞きな」 おじいさんの家は代々、凧職人であったらしい。父親から技術を学んだのだが、その修行は熾烈を極めた ものだった。 下図が描けるようになるまで十年、骨を削れるようになるまで、また十年。 父親で師匠だった人の教え。「迷わず、一心に数をこなせ。後は指が教えてくれる」 その教えを守り、死に物狂いで凧作りの技術を身に付けた。 そこまでして一人前になっても、家族を養っていけるほどの収入があるわけではない。 どんなに精巧に作っても、目的は子供の遊び道具だ。そんなに高い値段が付けられるわけではない。食い つなぐには副業をこなす必要があった。 それでも、おじいさんは凧作りに誇りを持っていた。 クローバータウンが四ツ葉町と呼ばれていた頃、正月に限らず、冬にはあちこちで凧が揚がっていたもの だった。 シーズン中は修理に追われ、それ以外の季節は冬に備えて作り貯める。 全ては子供たちの笑顔のため。貧しくても充実していた日々だったという。 「ところが近頃ときたら、凧揚げどころか凧を知らない子供までいる始末でな」 「…………すみませんでした」 「今じゃ伝統工芸とか言っては、金持ちが道楽で買い求めるくらいでな。そんなもんのために作ってるんじ ゃねえやな」 高額で買い取るとの申し出もあったらしい。おじいさんはその全てを断ってきた。 凧作りを神棚に上げるつもりはない。凧揚げは庶民の遊び。時代と共に必要とされなくなるのなら、失わ れるのも運命だと。 副業で続けていた扇子作りも、もう採算が合わなくなってきているらしい。何より凧作りを辞めてしまっ たことで、創作意欲が失われてしまっていた。 だから、今年の冬が過ぎたら工房をたたむのだとか。 おどけた口調で話してはいたものの、その表情はとても寂しそうだった。 このままではいけないと思った。 子供たちの笑顔のために頑張ってきた、おじいさんの幸せが失われてしまう。 そして、おじいさんの手で笑顔になれるはずの、子供たちの幸せも失われてしまうのだ。 「お願いがあります! 私に凧を作ってもらえませんか? お年玉と、お小遣いも少しは貯まっています」 「気持ちは嬉しいが、俺はもう凧作りは辞めたんだ。金なんて要らねえから、ここにあるのを好きなだけ持 って行きな」 「どうしても――――作ってほしいんです」 「駄目だ! 俺は頭が固いんでな、作らねえと決めたら二度と作らねえ」 そこから先は意地の張り合いだった。せつなはあきらめようとせず、おじいさんも頑として譲らない。 せつなは最後の賭けに出た。この工房にある中で一番揚げるのが難しい凧。つまり、大凧をせつな一人で 空に揚げることができたら作ってもらうと。 そんなこと出来る訳がない。あきらめさせるにはいい方法だと、おじいさんも約束してくれた。 持ち帰ることができるような大きさではない。後で友達を連れて取りに来るからと約束して、ひとまず引 き上げることにした。 「すまなかったね、せつなちゃん。大変な約束をさせちまって」 「いえ、興味があるのは本当です。あれが空に揚がるところを見てみたいわ」 予想を超えた展開に、おばあさんは戸惑っていた。子供好きな人だから、若い子とお話するだけで気分が 晴れるんじゃないかと期待しただけだった。 せつなもそれは感じていた。おばあさんの様子がおかしかった理由が、あのおじいさんのことだってこと を。 おばあさんは、ラブのおじいさんの源さんって方とも仲が良かったらしい。また一人、四ツ葉町から職人 が消えていくのが寂しかったのだろう。 せつなには、その気持ちの全てが理解できるわけではない。 せつなはクローバータウンが好きだ。友達と遊ぶゲームだって楽しいと思うし、機能的で扱いやすい洋服 だって大好きだ。 だけど、そのために古き伝統が失われていいとも思わない。晴れの日には着物も着たいと思うし、羽子板 やかるただって凄く楽しいと思う。 一つはっきりしているのは、幸せは輪だってこと。それを広げていくことが大切なんだってこと。 おじいさんは今、その輪から外れようとしている。 だから――――凧を揚げるのだ。 輪の中に居る――――みんなのためにも。外れつつある――――おじいさんのためにも。 せつなはおばあさんと別れ、家に向かって走りだした。 避2-534へ
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美希「まったく、いつアタシたちが結婚するなんて言ったのよ」 祈里「美希ちゃんは男の人と結婚したいの?」 美希「それは――嫌よ」 祈里「じゃあ、ずっと独りがいいの?」 美希「それも――嫌よ」 祈里「わたしが男の人と結婚してもいいの?」 美希「それは――絶対に嫌」 祈里「わたしは、やっぱりウエディングドレスがいいな」 美希「アタシは――結婚するなんて言ってないわよ!」 ラブ「美希たん、弄られキャラが嫌でツンデレにキャラチェンジしたのかな?」 せつ「私には、やっぱりブッキーに弄られてるように見えるわ……」 ラブ「せつなはあたしに弄られたい?」 せつな「ラブならいくらでもいいわよ?」 美希(大胆…) ブキ(…すごい) 「アタシたちって奥手なのかしら」 「別にラブちゃんたちに合わせる必要は・・・」 「す…」 「す?」 「すき………」 「?」 「すきやき!!!」 (はぁ~また美希ちゃん肝心なときに・・・)
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私は今ラブと二人並んで歩いている。 タルトとシフォンは私の腕の中で眠っている。 …タルト、今日はお疲れ様、それからオルゴール回しを押しつけちゃってごめんなさい。次からは気をつけるわ。 それにしても… … …… ……ダメ、やっぱり気になるわ。 「ねぇラブ。」 「何?せつな。」 「うん、あのね、先に帰っててくれないかしら。」 「いいけど、どうしたの?」 「えっと、その、…さっきのブッキーの様子が少し気になって…。」 さっき別れたときのブッキーの様子がなにかいつもと違っていた。 このまま帰るつもりだったけど…やっぱり気になる。 「やっぱり気づいてたんだ、ブッキーのこと。」 えっ? 「ラブも気付いてたの?」 気付いてたらどうして… 「ならどうしてなにもしないの?」 私と違って、幼馴染で付き合いも長いのに… 「あたしじゃダメだから……。」 ? 「どういうこと?」 「ねぇせつな……ブッキーのこと好き?」 ? 急に何? 「ええ好きよ。…もちろんラブと美希もね。」 「それって皆同じ?」 「えっ?」 「あたしや美希たんと、ブッキーに対する好きは同じ?」 「それは…。」 違う…二人とも好きだけどブッキーへの……祈里への気持ちとは違う。 どうして分かったのだろう。隠していたつもりなのに…。 「バレバレだよ、せつな。」 「!」 「…いつも一緒にいるんだから、わかるよ。」 なんのこと?…きっとそう言ってもラブには通じないんでしょうね。 「ブッキーには伝えないの?」 「……。」 「…言って今の関係が壊れてしまうんじゃないかって、拒絶されるんじゃないかって…そう思うと怖いの…。」 言って関係が壊れてしまうなら、拒絶されるなら、このまま言わない方がいい。 でもずっとこのままの状態でいるのは正直……つらい。 「いったい私はどうしたら…。」 「……言っちゃいなよ、せつな」 「でもっ…。」 「言ってすっきりしちゃいなよ。」 「……。」 「仮に…仮にだよ、美希たんがせつなに好きだって言ったらせつなはどう思う?嫌う?拒絶する?」 「まさか、…嬉しいとは思っても嫌ったり拒絶なんかしないわ!ただその思いには応えられないけど……。」 「……ブッキーもね、同じだと思うよ、戸惑って暫くはギクシャクしちゃうかもしれないけど…、 ブッキーがせつなを嫌うなんて絶対にありえないよ。」 「……ラブ。」 「幼馴染で付き合いの長いこのあたしが言うんだから、間違いない!!」 そう言ってラブは自分の胸を叩いた。 「ごほっごほっ。」 ……強く叩き過ぎたのね。 まったくラブったら…でも、ありがとう。 「ありがとうラブ、私、精一杯頑張ってみるわ。」 決心がついた私はタルトとシフォンをラブに預けるとブッキーのもとに向った。 「まったくせつなもブッキーも鈍感なんだから…バレバレなのに、ねぇシフォン?」 「……zzz。」 「ふふ、よく寝てる。」 「…それにしても何か忘れてるような……ってあぁ、あたしのジュース……ハァ、まあいっか」 「せつな、ブッキー……幸せゲットだよ。」 「そうですか…ありがとうございました。」 私はブッキーの家に行ってみた。でもブッキーはまだ家に戻っていなかった。 いったいどこに行ったのかしら…。 もしかして…… 私はアカルンを呼びだした。 「……公園へ。」 なんとなくここにいる気がした。 ……いた、ブッキーだ。 私は手に持っていた袋から中身を取り出し、空の袋は近くのごみ箱に捨てた。 がさっ。 その音で気づいたのかブッキーが顔をあげた。 「えっ……。」 「せ、せ、せつなちゃん」 「ど、どうしてせつなちゃんがここに?ラブちゃん達は?」 ? そんなに驚くことかしら? それにしても…ふふ、驚いた顔もかわいい…っていけないいけない。 私はにやけそうになる顔をなんとか元に戻した。 「ラブ達には先に帰ってもらったわ。」 私はブッキーに近づいた。 「えっ、どうして?」 「あなたに話したいことがあったから。」 「私に?」 「そう、あなたに」 私はそう言うとベンチに座っていたブッキーの隣に腰を下ろした。 「はいこれ」 さっき買ったジュースだ。本当はラブの分だったんだけど…ごめんねラブ。 「ありがとう、せつなちゃん。」 ブッキーがお礼を言った。 さて、どうやって思いを伝えようかしら。 そういえば、こういうことはさりげなくって、たしかこの前見たテレビで言ってような…。 よしっ。さりげなく、さりげなく… 「…好きなの。」 「えっ、あ」 ……ストレート過ぎたかしら? 「私もこのジュース好きだよ、おいしいよね。」 ガクッ。 力が抜けた。 えっと、ジュースのことじゃないんだけど、いえジュースも好きだけど……そうよね。 「……はぁ…そうよね、やっぱりこんなんじゃダメ…よね。」 さりげなく……難しいわ。 「何がダメなの?」 ブッキーが尋ねてきた。 「ううん、なんでもない。」 私はそう言うしかなかった。 あぁ、どうやって伝えたら…。 とりあえず私は落ち着くためにパインジュースに手をつけた。 「いただきます。」 ブッキーも飲み始めたようだ。 「ねぇ、せつなちゃ『今日は大変な一日だったわね。』 タイミング良いのか悪いのか私とブッキーの言葉が重なった。 ブッキーが何かを言いかけたので聞き返そうと思ったけれど 「うん、そうだね…。」 「一時はどうなることかと思ったけど、 シフォンちゃんもラブちゃんの子守唄のおかげで どこにも行かなかったし、 クローバボックスも美希ちゃんがちゃんと見つけてくれたものね。 2人なら大丈夫だって、私、信じてた。」 ブッキーが話を続けてきたので聞き返すのをやめ、 私も 「そうね」 と返した。 「やっぱりラブちゃんと美希ちゃんは凄いよね。」 「えぇ、ラブも美希も凄いわね。」 本当に二人は凄い、でもブッキー、あなたもよ。 そうして暫くラブと美希の話題が続いた。 ラブと美希の話をする私とブッキー。 「それでねブッキー」 「……」 聞こえなかったのかしら? 「ブッキー?」 「……」 返事が返ってこない 「ブッキー!!」 「えっ?」 少し強めの声にブッキーがやっと気付いた。 「どしたの?」 私は尋ねた。 「ご、ごめんなさい。ボーっとしちゃって。」 「なんでもないの。」 ブッキーはそう言った。 でも…でも、その顔は…。 「……嘘ね」 私は言った。 「ねぇ、ブッキー。」 「…何?せつなちゃん?」 「なんでもないなんて、そんな顔して言われても説得力ないわよ。」 私はブッキーの頬に手を伸ばした。 ねぇ、どうして? 「どうしてそんなに悲しそうな…いいえ、苦しそうな顔をしているの?そんな顔にさせたくて、 ブッキーと話をしたかったわけじゃないのよ。」 そう、私はそんな悲しくて苦しそうな顔のブッキーを見たかったわけじゃない。 私が何か悲しませるようなことを言ってしまったのだろか? 「せつなちゃん。あのね。」 弱弱しくブッキーが私を呼ぶ。 「うん。」 いったいどうしたの? 「私…私ね…」 「せつなちゃんのことが……好き…なの。」 えっ…… ホントに? 「わたしも…ブッキーのこと…好きよ。」 うれしい…、 「…ありがとう、せつなちゃん。」 伝わった…。 「でも、せつなちゃんが言ってる好きって友達としての好きでしょ。」 えっ? 「私の好きとせつなちゃんの好きは意味が違うよ。」 えっ、ちょと待ってブッキー。 「ブッキ『こんなこと言って、迷惑だって、身勝手だってわかってるの。』 私の声はブッキーの声に遮られた。 「でも…でも…」 「…友達としてじゃなく一人の女の子として、せつなちゃんのことが好きなのっ。」 ブッキーが泣いている。 どうして?わたしも好きなのに… 同じじゃないの…? 言葉だけじゃ伝わらないの? …だったら…… 私はブッキーの頬に手を伸ばした。 ブッキー、そう言おうとして私はやめた。 「…祈里。」 そう言って両手で顔を持ち上げた。 「人の話は最後まで聞くものよ。」 「私はあなたが好きだって言ったわよね。」 「でもそれは!」 それは私の好きとは違う、そう言うつもりなのだろう。 そうはさせない。 私は指で祈里の唇を塞いだ。 ほんとに 「もうっ」 あわてんぼうね 「最後まで聞いてって言ってるのに。」 「私の好きとあなたの好きとは違うといっていたけれど…」 私は祈里の顔に自分の顔を近づけ祈里の耳元でこう囁いた。 「…私の好きってこういうことよ。」 次の瞬間私は祈里の唇に触れた。 …やわらかい。 私はそう思いながら、祈里から離れる。 ? 「祈里?」 反応が返ってこないわ。 祈里を見る。 「祈里?」 これは…固まってるわね。 「…ハァ……祈里!!」 声を強める 「えっ、あ、はい!」 ふふっ祈里たら顔が真っ赤ね…まぁきっと私もだけど…。 「ラブも美希も好きよ。でもこんなことしたいと思うのはあなただけ。」 そう、あなただけなのよ祈里。 これでもあなたは違うというのかしら。 「ねぇ、これはあなたの好きと同じではないのかしら?」 終 7-74は祈里視点での初デートの様子を。
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「ねえ、美希ちゃん?」 祈里は机の上にある雑誌をめくりながら、 片手に持つリンクルンの向こうの話し相手に尋ねた。 「なあに?」 「ラブちゃんと、せつなちゃん、あの後、どうなったと思う?」 「そうねえ……」 電話の向こうのから聞こえてくるのは、んー、一瞬考え込むような声。 「……別に何も起きなかった、かな」 「そうなの?」 やけに自信たっぷりに言い切る美希に、祈里が尋ね返す。 「ラブは行動力があるように見えて、 自分のことになると誰かに背中を押されないと踏み出せないところがあるし、 せつなは結構積極的だけど、アピールの仕方というか、 上手い迫り方?そういうの知らないでしょ? ……だから、何にもない、っていうのがアタシの分析」 「そっかぁ、美希ちゃんがそういうなら、その通りなのかな」 心底残念そうに呟く祈里。 「はあ……『キスを見せ付けて二人の仲を進展させてみよう作成』失敗っと…… ねえ美希ちゃん、次はどんな手で行く?」 「そうね……今度はダブルデート、なんてどう?」 「うん、いいね、それ。それでラブちゃんの背中、どーんって押してあげたりとか」 「せつなに相手のハートを射止める仕草を伝授してあげるとか?」 アハハ、と声を重ねて笑い声を上げる二人。 ひとしきり笑った後に、ところで、と美希が切り出す。 「それ、ちゃんとあたし達二人きりの時間もあるんでしょうね?」 「勿論!デートなんだから最後は二人っきりで……ね。 今度は誰も見てないところで、キスして欲しいし……」 「……言うようになったわよね、ブッキー」 返事に一瞬、沈黙が挟まれたことで 多分、美希が照れているのだと察する祈里。 (……美希ちゃんの照れ顔、可愛いのよね) それが電話越しで見えないのを残念に思いつつ、言葉を返す。 「えへへ、それは美希ちゃんのおかげだよ。 好きな人と気持ちが通じあえたことで、私、変わることが出来たんだと思う。 ……だから、ラブちゃんもせつなちゃんも、 私達みたいに上手くいって欲しいなって」 「……そうね」 美希から返ってくる声も、肯定。 二人にも幸せになって欲しい、その気持ちは共通のものだから。 「それでね、美希ちゃん、デートコースの設定、お願い出来るかな? 出来ればラブちゃん達の様子をこっそり見ながら、 ちゃーんと二人っきりで過ごせるのがいいな」 「……無茶言うわね、ブッキー。 でもまっかせなさい!オーダー通りの完璧なデートプラン、作ってみせるわ!」 自信たっぷりに応える美希の声。 彼女の好きな人はこんな時、絶対に期待を裏切らない。 二人と二人のダブルデート、楽しいものになるのは間違いなさそうだ。 だから、祈里の返事も決まっていた。 「うん、素敵なデートになるって、私、信じてる」
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ラブせつ1号館 40話保管 ラブせつ2号館 40話保管 ラブせつ3号館 40話保管 ラブせつ4号館 ラブせつ別館
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皆が寝静まった部屋。戦いの余韻で何となく眠れずにいたせつなは、おもむろにメールを打ちはじめた。 『寝た?』 『寝れないの。せつなも?』 文面を見てせつなは微笑んだ。可愛いわ…すぐに返信があるところが、やけに素直で。 せつなはトイレに立った振りをして個室でアカルンを起動する。 紅い光を浴びて、驚いた美希が叫ぶ。 「もう!びっくりするじゃない!」 嬉しさを隠しながら怒ったふりをする美希だったが、本当は逢いたかったので顔がにやけている。 「美希…何か顔がやらしいわよ」 「しし失礼ねっ!もーホント、モデル捕まえて何言うんだか…」 ぶつぶつ言っている美希を尻目に、無言で美希のベッドに入り込むせつな。 「ちょ、ちょっと!いきなり入ってこないでくれる?」 「だって…この部屋、沖縄に比べて寒いんだもの。美希の身体…あったかい」 フローリングで冷えた脚を美希の脚に絡め、せつなは彼女の腹部に頭をくっつけた。 「しょうがないわね…」 せつなの頭をいい子いい子しながら、美希は考える。 アタシ、ペースを完全に乱されてる…。全然完璧じゃない。なのに、それがこんなに嬉しいなんて。 「すーすー」 「ちょっ、せつな!?さすがに寝ちゃったらヤバイわよ!点呼もあるかもしれないし…起きなさいよ!」 「くっくっくっ…」 声を抑えながら笑うせつな。はめられたわ…悔しいっ! 「もう知らない!せっかくひとが心配してあげてるのに」 美希はプイっと背中を向けてしまった。 「ごめんなさい、怒らないで美希」 「イヤ!」 「…こっち向いてよ」 背を向けたままの美希を、せつなが抱きしめる。 「今日、来てくれて嬉しかった。それが言いたくて。怒らせるつもりなんて無かったの。…ごめんなさい、もう帰るわね」 「待って」 帰ろうとするせつなを、美希の上ずった声が遮る。 「アタシも言いたいコトが…あったかも」 「…なあに?」 「逢いに来てくれて…嬉しかったわ」 ハニカミながら美希はせつなの額にくちづけた。一瞬の出来事でせつなは呆然としている。 「黙ってないで何か言ったら?照れるじゃない!」 「…違うわ」 「え?」 「キスは…ここにするものよ」 ちゅっ 今度は美希が呆然とする番だった。 「じゃ、ね。おやすみなさい美希」 再び深紅の光が部屋を照らし、彼女は居なくなる。 「まったく…」 くちびるを指でなぞりながら、さっきの記憶を辿り、胸に刻みこむ。 あのコといると、振り回されっぱなし。 アタシ、完璧にはまってる。
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ラブ「もーすぐ七夕っ!」 美希「浴衣の季節よね」 祈里「夜空もきれいだしね」 せつな「花火、今年もやりましょ!」 あっと言う間の一年。 中学生最後の夏。思い出作りに余念が無いクローバー。 ラブ「また来年も一緒に」 美希「違うでしょ」 祈里「ずっと…」 せつな「四人でね」 光り輝く星空と少女たち。 夏はまだ、始まったばかり。 せつ「七夕と言えば織姫と彦星、でしょ?」 美希「1年に1度きりの逢瀬か…ロマンチックだけど、あたしには絶対無理!」 ブキ「こう見えて美希ちゃん、寂しがり屋さんだもんね」 美希「ま、まあね……(ブッキーにはバレバレね……なんか照れる)」 ラブ「せつな、アタシ達ってまさに今そんな感じだよね」 せつ「ちょっとラブ!失礼しちゃう!こんなに何回も会いに来てるじゃない」 ラブ「だって……!だって全然足りないよぉ!!」 せつ「……ラブぅ」 ラブ「せつなーーーッ」 むぎゅう!! 美希「ったく!アンタたちもう結婚しちゃいなさいよ」 ブキ「せつなちゃんこの前ね、ラビリンスの法律を同性結婚OKにしたんだって」 美希「!!!」 ブキ「わたし、美希ちゃんならウエディングドレスも着こなせるって信じてる……」 美希「ももも勿論よぉ!」 せつ「あーあ、しどろもどろじゃない」 美希「い、いーじゃない別に!!」 ラブ「こーゆーとこが美希たんの可愛いトコなんだよ。ね?ブッキー」 ブキ「うふふふ」
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ザアァァァァァ―――――。 路面に叩きつける激しい雨粒。降り頻る夕立の中を駆ける夏期講習帰りの2人の少女。 ようやく雨宿り出来そうな店の軒下に飛び込み、乱れた呼吸を整える。 「たはー!参っちゃうよねぇ、いきなり降ってくるんだもの!」 「そうね・・・。」 あんなに晴れてたのにさぁ、と空を見上げながら恨めし気に呟くラブに応じながら、 せつなは取り出したハンカチで髪や腕を拭っている。 「まぁでも通り雨だと思うからさ、ちょっと待ってればすぐ止むよ!」 「だといいけど・・・。」 雨が止むまでの暫くの間、他愛もないお喋りをしながら時間を潰す事にした。 今日受けた講習の内容や進路の悩み等、進学を目前に控えたこの時期特有の 会話が続いて。 「・・・でさー。せつなは・・・。」 会話の途中で何気なくせつなの方を向くラブ。すると、視界に入ったせつなの姿に ラブの目が大きく見開かれる。 (えっ、ちょっと、ヤバいよせつな!) そこには、雨に濡れた所為で夏服が体に張り付き、胸の谷間やお臍が識別可能な程 素肌が透けてしまったせつなの姿。 走って来た事で、色白い肌はほのかに上気しており、それがより一層透け具合を 強調している。 また、髪先や顎を伝って落ちる水滴が何とも言えぬ艶かしさを醸し出していて。 せつなの一糸纏わぬ姿は幾度と無く目にしてきたものの、普段あまり露出が多い 格好を好まない彼女を良く知る身としては今の状態がとても新鮮に映り。 (わはー・・・。) まさに水も滴るいい女、という言葉を当て嵌めるのが適切なせつなの姿に、 ラブは声も無くただただ見入ってしまっていた。 「・・・どしたの?」 「あ・・・。」 急に会話が途切れたのを不自然に感じたのか、ラブの方を向くせつな。 固まってしまっているラブの視線を辿って己の姿をまじまじと見やり。 状況を把握したせつなの頬がかぁっ、と朱に染まる。 「・・・あのねぇ、ラブ。」 「ご、ごめん・・・。」 何も言わず見惚れていた事を詰問されると思い、ラブは謝罪の言葉を口にする。 しかし、返ってきたのは意外な言葉で。 「・・・私もそうだけど、ラブも結構酷い事になってるわよ?」 「へ?」 せつなにそう言われ、ラブは己を見やる。―――すると。 するとそこには、素肌はもとより胸を覆う薄桃色のブラジャーまで透けた悲惨な 姿があった訳で。 「―――――!!!」 声にならない声を上げて、ラブはその場にしゃがみ込んでしまい。 「なっ、何でもっと早く言ってくれないのよぉ!」 「それはこっちのセリフよ!」 「ふぇーん、こんな状態じゃ家に帰れないよぅ・・・。お願いせつなぁ、 アカルン使ってよぉ・・・。」 「馬鹿な事言わないで!家まであと少しなんだから、走って帰るわよ!」 「そんなぁー!」 ―――そして、夕立が上がった後。 先程を遥かに上回る勢いでクローバータウンストリートを駆けるラブとせつなの 姿があったそうな。